2014年11月30日日曜日

お先に体験『カルチュア・マリアージュ』 ――ツタヤの GoogleGlassコンセプトの先行実験と考察

2014/12/22追記:
ITmedia さんに企画のレビュー記事が載っていました。
だいたい私が予想した感じの仕組みのようですね。
実験結果もこの記事後半に書いたとおりになることでしょう。

 本年12月中旬、TSUTAYAさんが Google Glass を使った実験施策『カルチュア・マリアージュ /Culture Mariage』を行うそうです。

カルチュア・マリアージュの詳細はオフィシャルサイトをご参照いただくとして、当サイトでは
まだ実施されていないこの施策と同等のアプリを速攻開発
して、
施策で得られるであろう課題や知見を実施前に明らかにしてしまおう
と思います。

Google Glass の知見が十分にたまっている筆者だからこそできる、渾身の記事です!



■カルチュア・マリアージュの企画概要

ツタヤさんの企画をかんたんにまとめますと、なんらかの本 と相関性の高い なんらかの音楽 を提供する と。
そして、このあたりの相関性については、ツタヤさんならではのビッグデータを活用すると。
詳細はオフィシャルサイトを見ていただきたいですが、だいたいそんな感じです。

<ここから想像される仕様>
・Glass を経由して「とある本」を検知すると、相関性の高い音楽を Glass から流す

・本来は「相関性の高い音楽」をビッグデータから導き出す必要があるが、今回は技適の関係で『今回の施策で用いられるGoogle Glassは、電波が飛ばない仕様にカスタマイズされたものとなります。』とある
 したがって、体験者本人向けにあからじめカスタマイズしたアプリを Glass にインストールしておく (「とある本」や「相関性の高い音楽」のデータを埋め込んでおく)

  ※『事前応募当選者以外のご来場の方々につきましても、簡易的な体験であればお楽しみいただけます』とあるため、埋め込んでおくデータが違う以外は 当選者 と それ以外 とで変わる点はなさそうです

・「とある本」の検知方法は
  a. 本の表紙画像認識
  b. OCR による本のタイトル文字
  c. 本のバーコード
  d. RFID などのタグを活用  ←電波を扱うため今回は対象外と思われる
 が考えられるが、おそらくは a. でなかろうか

  ※b. は a. よりも誤認識が多いのではないかと想定
   c. は、確実な反面、ユーザーがいちいち本を裏返す必要がある

・なお「購買」については、今回は Glass に保存したファイルを使って人手を介して実現しているはずなので、筆者の実験では対象外とする



■さっそく、準備する
想定仕様がまとまった (実際には違うかもしれませんが・・・) ので、さっそくアプリとデータを用意しましょう。


「ビッグデータ」部分は Glass 自体とはなんの関係もないため、今回は 手近にあった本 と パソコンに取り込んであった音楽 を使いました。

アプリについては 15分くらいで開発したもの を使います。
15分は普通に考えれば速すぎなのですが、そこは筆者がダテに『日本初の Glasswareデベロッパー』などと名乗っていない理由でもあります。

筆者は "exnote [エクスノート]" という「なんらかのタイミング」に「なんらかのデータを提示」するという非常に汎用的に使える Google Glass 用のアプリ (Glassware) を開発しており、これのカスタマイズで済ませました。



■さっそく、やってみた
Glass でアプリを起動した状態で、興味のある本を手に取ります。

※この写真は、あなたの目で見えている視界と考えてください

・・・すると、本を認識しました!

※Glass の表示は、あなたの視界の右上に表示されます

Glass の表示を拡大すると、このようになります。
本のタイトル "ガンダム THE ORIGIN 23" と、おすすめ曲 "StarRingChild" が表示されております。
写真では分かりませんが、このとき、Glass から実際に "StarRingChild" という曲が流れております。

※どうでもよい情報ですが "StarRingChild" は ガンダムUC の曲です
おそらく、ツタヤのビッグデータでも、かなり高い確率でマッチするのではないでしょうか


こんどは、手に取る本を変えてみましょう。

すると・・・
本のタイトル "銀灰のスピードスター 1" と、おすすめ曲 "B-Bird" が表示されております。
やはりこのとき、曲も流れております。

※どうでもよいですが、ポルシェターボ といえば ブラックバード ですよね


これが『カルチュア・マリアージュ』を想定して筆者が用意した Google Glass 用のアプリ (Glassware) です。



■考察
さて考察ですが、二通りで考察いたしましょう。

1) 実験施策時点(=Glass が普及していないとき) に対する考察
2) Glass が普及したときの考察


1) 実験施策時点(=Glass が普及していないとき) に対する考察

ありそうな課題から列挙してまいりましょう。


◆Glass 初体験ユーザーの Glass への習熟に時間がかかる
Glass はスマートフォンなどと違って一癖あるため、体験者が実際にサービスを使えるまでに時間がかかります。
 →単位時間あたりで体験可能な人数が限られる

◆ただでさえ用意できる Glass の数が限られる上、視力の悪い人に合う Glass となるとさらに少なくなる
現状の Glass は約15万円かかるため、数量の用意が大変です。
さらに、メガネをかけている人は通常の Glass を使うことができません (画面が見えません ※)。
 →単位時間あたりで体験可能な人数が限られる

 ※何種類もの 度入りレンズ付きフレーム装備のGlass を用意しないと対応できない (そこまでしても、全員の視力に対応できるわけではない)。

 ◆バッテリー持続時間 と 使い勝手 のトレードオフ
実際のサービス内容がどうあれ、「体験者が気に留めた本」をアプリ側で正確に認識する必要があります。

このときに
 常に認識処理を動かしておく

 体験者の操作で認識処理を動かす
か、
いずれにするかで Glass のバッテリーの持続時間が変わります。
 →前者だと、バッテリーを食う反面、特別な操作が不要なため使い勝手は上がる
  後者だと、バッテリーを食わない反面、特別な操作が必要なため使い勝手が下がる

◆本の誤認識 と使い勝手 のトレードオフ
「体験者が気に留めた本」をアプリ側で認識する技術的な方式は、先に述べた (a 〜 d.) とおり複数考えられます。

書店である以上、たくさんの本が陳列されているはずです。
このような状況下で、体験者が気に留めた一冊の本だけを Glass 側のアプリで正確に認識する必要があります。

このときに
 Glass のカメラが捉えている本の中から一冊を選び出す

 体験者に本の表紙を Glass の目の前にかかげてもらう

 体験者にバーコードを Glass の目の前に掲げてもらう
か、
などなど、いろいろな方式が考えられますが、技術的ハードルが高かったり、体験者の使い勝手が悪くなったりします。
技術的ハードルが高い方式は、総じてバッテリーを食うものにもなりがちです。
 →使い勝手とバッテリーの減り具合を考慮した方式にする必要があるが、おそらく使い勝手は多少なりとも犠牲になったサービスにせざるを得ない

◆Glass の熱量
体験者は言うことでしょう。
「耳の上がなんか熱い」と。
 →熱を低減させるためには処理量を少なくする必要があり、これは使い勝手に影響する

◆Glass の充電
企画の担当者は言うことでしょう。
「充電がなかなか終わらないから、人を待たせてしまっている」と。
 →スマホ用のモバイルバッテリーと Glass を常時接続しておくことで対策可能

◆首が疲れる
アプリの作りによる部分もありますが、広島での Glass 実験 においては「首が疲れる」という体験談が多かったそうです。
Glass をモバイルバッテリーなどと接続せず、かつバッテリーを持たせるようなアプリ設計にしている場合には、体験者はアプリを起動するために頭を上向きにする必要があります (Glass の操作説明はこちらを参照)。
 →Glass 未体験者が短時間で慣れるのは難しい


総じて、
・企画者にとって、回転が悪い
・体験者にとって、使い勝手が悪い
とまとめられるかと思います。


ただし、否定的な見解が並んだものの、この施策がイマイチかというと――意外なことにそうでもありませんでした。

選んだ本によって、なんらかの関連性の高い音楽が聴こえるというサービスは、いままでにない新たなエクスペリエンスを提供するものであると感じました
しかも、これはユーザーからより多くのお金を引き出しうるという意味で、小売店舗として希望を持てるサービスであるとも考えられます。



2) Glass が普及したときの考察

さて、1) では Glassを借りてサービスを受ける ときの課題等を整理しましたが、こんどは 自分のGlassを使ってサービスを受ける ときを考察いたしましょう。

このような状況下では、1) で挙げたような 人の回転率 にかかわる問題は無視できます。
また、そのころには Glass 自体の性能もいまより向上しているでしょうから、使い勝手の向上 も見込めます。

・・・おや?
Glass に起因する懸念は、あまりなさそうですね。これは筆者も意外でした。
となると、しいて言えばこれでしょうか。

◆Amaz●n のようなオンラインショップとの戦いとなる
小売大手のテスコが バーコードを読み取って商品を販売する Glass のサービスを手がけています。
Glass 等のスマートグラスが普及した暁には、このようなサービスに Amaz●n などが即・参入してくる可能性があります。

スマートグラスを使うと、店舗に陳列された商品の値段をオンラインショップの値段と比較しやすくするサービスなどが実現できます。
つまり、スマートグラスを通して陳列された書籍を見ることで【より安価な電子書籍版】を提示するサービスや、書籍と相関性の高い音楽の【より安価な電子版】を提示するサービスなどが考えられます。

もはや Glass の問題ではなく リアル店舗 と ネット店舗 の戦いですね。
これ以上は主題から離れすぎるため、やめておきましょう。


■まとめ
いかがでしたか。
12月中旬にツタヤさんが実施する実験が楽しそうであったため、実際の仕様を想定して自分で実験してみました。

データも自分で用意しているので、アプリを使って得られる結果は自分が予定しているとおりでした。
が、それにもかかわらず、意外なことに楽しかったのが特筆されます。

実際の『カルチュア・マリアージュ』にご興味のある方は、ぜひ応募してみてください。
12/2 まで応募を受けてつけているそうです。お早めにどうぞ!
# 当選するか分かりませんが、筆者も応募済みです。わりと興味津々です。
# 落選しても、絶対簡易版の体験に行く!!


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筆者は Google Glass をはじめとしたウェアラブルデバイスに関するコンサルティングや企画・開発を承っております。
お問い合わせ等ございましたら、ブログ右側の ■著者に連絡■ よりご連絡頂けますと幸いです。


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